溺愛ドクターは恋情を止められない
緻密な計画を練りそうな彼が、そんな経験をしているなんて信じられない。
「そうだろ? 自分でもそう思うよ。けど、あの頃は楽しかったな」
クスクス笑う先生が、空になってしまったマグカップに気がついた。
「あっ、悪い。引き留めすぎたな。送るよ」
ハッと腕時計に目を落とすと、もう二十三時を指していた。
彼との時間が心地よくて、気がつかなかった。
「私こそすみません。ひとりで帰れますから」
バッグを持って立ち上がると、断ったのにもかかわらず、彼は車の鍵を手にした。
「あのっ、ホントに……」
「こんな時間にひとりで帰せるか」
ちょっと強めの口調で、私をたしなめる。
だけど、その心遣いがとてもうれしかった。
「意外と近いな」
電車だと、彼の家の近くの駅から四駅ほどあるけれど、車でショートカットするとあっという間についてしまった。