溺愛ドクターは恋情を止められない
「すみません。ありがとうございました」
車を降りて頭を下げると、先生が助手席の窓を開けて、私の顔を覗き込む。
「松浦」
「はい」
「お前はひとりじゃないぞ? それじゃ、おやすみ」
ドクンと心臓が跳ねる。
「先生……ありがとうございます」
ひとり、じゃない……。
母を失ってから、自分の殻に閉じこもって生活してきた。
だから、母のことを誰かに話したこともなかったし、聞いてもらいたいとも思ったことはなかった。
それなのに、彼に出会ってから、なにかおかしい。
あれほど頑丈だった硬い殻が、容易に壊れていく。
彼の車が小さくなっていくのを眺めながら、頬に伝う涙に気がついた。
「先生、ありがとう」
届かない声は、夜の闇に吸い込まれていった。