溺愛ドクターは恋情を止められない

「わかりました」


ナースに指示を出された中川さんが、すっと立って、受付を出て行った。


人がひとり亡くなっても、誰ひとりとして動揺している様子がない。
それどころか、さっきまで処置室にいた別のナースが、待合室の患者さんに笑って話しかけている。


どうしてだろう……。
皆どうして、そんなふうに振舞えるの?

目の当たりにした人の死に、動揺しているのは、私が未熟だからなの?


受付の奥に入って息を潜める。
だって、笑顔なんて、今の私には作れない。


「これ」


うつむく私にIDを差し出したのは、汗びっしょりになった『高原』と呼ばれていた先生だった。

まだ、名前も、生年月日も入力されていないIDを手にすると、我慢していた涙が、こぼれ落ちそうになる。
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