溺愛ドクターは恋情を止められない
「さやか、さやかはどこですか?」
その時、ひとりの女性が、救急の入り口からすごい勢いで飛び込んできた。
多分あの女の子の母親、だ。
「ご案内します」
加賀さんが、表情ひとつ変えることなく、その女性を処置室に誘導する。
もちろん、事実は伏せたまま。
それを伝えるのは、私達の仕事ではないから。
「さやかー。イヤー」
処置室に入った母親の悲痛な声が、響き渡った。
白い布をかけられたわが子の姿を見て、きっと命が尽きてしまったことを察したのだ。
そして、外科の先生が、静かに臨終を告げた。
本当は我慢するべきなのかもしれない。
他の業務はいくらでもあるし、他の患者さんを動揺させてはいけない。
病院側の人間としては……。
でも……でも、できない。