溺愛ドクターは恋情を止められない
私は気がついてしまった。
さっきまで、さやかちゃんの命をつなぎとめていたその手が、震えていることを。
「すみません……」
少し気持ちが落ち着くと、そっと先生から離れた。
高原先生の白衣が、私の涙で濡れている。
「大丈夫か? 今は患者が途切れているから、救急のコールがあるまでここにいろ」
「本当にすみません。取り乱したりして……」
救急外来のスタッフとしては失格だ。
「いや、気にするな」
それでも、高原先生は私をとがめたりはしない。
少し落ち着いてきた私を、部屋の隅にあったソファーに座らせると、頭をポンポンと叩いて彼は出て行った。
その日は、それから数件救急車を受け入れた。
妊婦さんの破水は、特に処置することなくそのまま産婦人科行きとなり、精神科の既往歴のある患者もすぐに精神科へと引き継がれた。