溺愛ドクターは恋情を止められない
「そう。その調子」
顔をそむけながら、それでも必死に押さえる私に、声をかけてくれる。
「もう少しだ」
その時、患者がビクッと動いた。
ぐっと力を入れて押さえ直すと、なんとか治療には支障がなかったようだ。
でもその時、見ない様にしていた傷口が目に入ってしまった。
ドクドクと心臓が高鳴りだし、冷静でいられない。
でも……。
高原先生がすごい速さで縫合を進める様子に、目が釘付けになる。
小柴部長が認めるほどの腕前の彼は、少しも迷うことなく特殊な針を操る。
最後にあっという間に糸を縛り「ありがとう」と私に声をかけた。
「はい……」
「松浦。平気か?」
「……はい」
床に転がるガーゼは血で真っ赤に染まり、彼のグローブも血だらけだった。
そして、傷口近くを押さえていた私のグローブも……。