溺愛ドクターは恋情を止められない
「おぉ、お疲れ」
小谷先生は口角を上げ、少し笑ってみせたけれど、いつものように覇気がない。
「あの、大丈夫ですか?」
「うん。サンキュ。松浦に心配してもらえるなんて、最高の贅沢」
いつもの調子が戻って来たけれど……。
「きっと松浦にわかってもらう」
先生は私をじっと見つめて、言葉を漏らす。
「先生、私……」
「今は聞かない」
私の答えがNOだとわかっているのだろう。
彼はそう言うと、困ったように微笑んだ。
「失礼、します」
私は小さく頭を下げて、その場をあとにした。
患者を救っているときの小谷先生の緊張感は、こちらまで伝わってくる。
それでいて、ひとつ間違えれば暗くなりがちな救急という場所を盛り上げることで、緊張でパンパンに膨らんだ風船に穴をあけ、気持ちを軽くしてくれる存在。