溺愛ドクターは恋情を止められない
「受付に変わりますので、住所や名前をお知らせください」
そういう会話が聞こえた後「中川さん、救急車受けるから電話変わって」と大きな声。
「わかりました」
酒井先生の言い方に棘を感じた。
いつもなら、誰と指定してこない。
「受付の人」と呼ばれ、三人のうちの誰かが対処するから。
しかも、もうひとりいる加賀さんは、会計に行っていていなかった。
それでも、そんなことを気にしている暇はない。
中川さんが電話を受けると、手分けしてIDやカルテの制作を始めた。
酒井先生はスタッフルームから出てくると、なにも言わずに処置室に入って行く。
彼女の様子が気になったけれど、到着した救急車を見て、気持ちを引き締めた。
「自宅で突然倒れ、激しい腹痛を訴えています。既往歴は……」