溺愛ドクターは恋情を止められない
救急隊員から話を聞きながら、ストレッチャーに付き添う酒井先生は、鋭い目をしている。
「すぐにライン確保します。エコー準備して」
処置室に入った途端、的確な指示が飛び始めた。
「IDできました」
「遅い!」
すぐに持って行ったつもりだ。
いつもと変わらないはずだった。
それなのに、酒井先生の怒鳴り声が飛ぶ。
「すみません」
「一分一秒無駄にしないで!」
そんなことを、初めて言われた。
「はい」
IDをひったくるように受け取った先生は、再び診察を始める。
結局その患者は、尿道結石で、泌尿器科へと引き継がれた。
その日はそれから珍しく穏やかだった。
だけど、酒井先生が怒っていることを知った私には、その静寂が返って辛かった。