溺愛ドクターは恋情を止められない
スタッフルームからは、酒井先生とナースの会話が聞こえてくる。
「昨日の患者さんは大変だったわ。耳が遠くて話が伝わらなくて」
「それで先生、どうされたんですか?」
「筆談よ。高原先生に教えてもらったことがあるの」
わざと高原先生の名前を出しているように聞こえてしまうのは、私の心が狭いからだろうか。
夜勤の人と引継ぎをしていると、夜勤の内科系担当医と早々に引継ぎを済ませた酒井先生が、救急を出て行った。
その様子を見て、やっと気が抜けた。
あれからずっと、ピリピリした雰囲気が漂っていたから。
事務の引継ぎを終えると、残っていたナースに挨拶をして救急をあとにする。
すると、更衣室に向かう渡り廊下で、酒井先生が私を待ち構えていた。