溺愛ドクターは恋情を止められない
私に泣く権利なんてない。
最初から恋人のいる人を好きになった私が悪い。
すると先生は諦める様に手を離してくれた。
そして私は、倉庫に駆け込み、立ち尽くす。
これでいいの。
そう自分に言い聞かせるけれど、勝手に涙が溢れてくる。
口に手を押し付け、必死に声を抑えると、気が済むまで涙を流し続けた。
それから、平気な顔をして業務をこなすことだけが、私の仕事になった。
小谷先生は学会から帰ってきて、救急の業務にも携わったけれど、相変わらずのおちゃらけキャラで雰囲気を和ませてくれるだけで、特別な進展はなにもない。
きっと彼は、今なにを言っても私の返事が良くないことに気がついているのだろう。
そして、高原先生は……。
いつものように淡々と業務をこなしているだけで、あれ以来なにも話しかけてくることはなかった。