溺愛ドクターは恋情を止められない

さっき母親が駆けつけて、ナースが付き添ってオペ室に行ったばかり。


「お疲れ様です」


あの子は?
すがるように彼の顔を見つめると、「あとは脳外の先生にお任せした。助かることを祈っている」と顔をゆがめる。

もう引継ぎが終わっていたけれど、そのまま帰る気になれず、オペ室のある地下に向かっていた。

ひんやりとした空気の中、母親の泣き声だけが響いている。
隣にはあれから駆けつけてきた父親の姿。


部外者の私がオペ室の前まで行くわけにはいかず、エレベーターホールを挟んで反対側にあるボイラー室の前に立ちつくしていた。

自販機があるおかげで、両親からは私の姿は見えないはず。


それから一時間。
まだオペは終わらない。

そして私は、どうしても帰ることができないでいた。
< 244 / 414 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop