溺愛ドクターは恋情を止められない
だけど、どうしても返事をすることができなかった。
私もお礼が言いたかったのに。
あの少年を助けてくれた、お礼が。
「先生、見てますか?」
窓を開け、手で望遠鏡を作るのは、もう習慣になってしまった。
あれが、織姫かな……。
本棚には、星座の本が仲間入り。
先生みたいに詳しくはないけれど、なんとなく星座の位置がわかるようになってきた。
その時、ふと『天の川を渡るのは、簡単じゃないんだな』とつぶやいた彼の苦い顔を思い出す。
どういう意味だったのか、未だにわからないけれど……。
「織姫星にも、なれなかった、な」
まだ生ぬるい風が、頬を撫でていく。
「頑張ろ」
泣いてばかりでは先に進めない。
せめて、今でも大好きな高原先生に心配をかけない様に、頑張るしかない。
「せめて、七夕の日は、晴れますように」
星空にそう祈ると、窓を閉めた。