溺愛ドクターは恋情を止められない
桜の花びらが、時折吹く風にあおられ、空に舞う。
「きれい」
「この瞬間だけのために、桜は一年準備し続ける。寒い冬のあとには、必ず春がやって来ると信じて」
ハンドルを握る先生は、前を見据えたままつぶやく。
『寒い冬のあとには、必ず春がやって来る』という言葉に、大きく頷いた。
もしかしたら、先生も同じような気持ちで医師をしているのではないだろうか。
休みも保障されていない大変な仕事だけれど、必ず助かる命があると信じて。
だけど、残念ながらなんらかの理由で、次の年は咲かない枝もある。
さやかちゃんの姿がまた頭に浮かんで、うつむいた。