溺愛ドクターは恋情を止められない

諭すように語る小谷先生は、私をゆっくり立たせてくれた。


「酒井の辛い気持ちは痛いほどわかる。俺も失恋したばっかりだしな」


小谷先生を見上げる酒井先生の瞳が、心なしか潤んで見えた。


「また後で来るから待ってろ。とりあえず、これ、治療しないと」


小谷先生は、私の手を引き、歩き始めた。

後でドアが閉まる音。
その音を聞いた瞬間、張りつめていた気持ちが緩んで、左手がジンジン痛みはじめる。


「まったく、お前ってヤツは! お説教だ」

「すみません」


エレベータに乗ると、彼はハンカチを取って、患部を覗き込む。


「ちょっと縫わないとダメだ。レントゲンも撮るぞ」

「……はい」


もう一度ハンカチを縛った彼は、私を再び車に乗せ、病院へと向かう。
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