溺愛ドクターは恋情を止められない
「アクションは、全部私から」
酒井先生は、眉間にシワを寄せた。
「だから、あなたがここに来て、あっという間に彼の心を奪っていくから、すごく腹が立った」
「はっ」と短い溜息を漏らした彼女は、首にかけてある聴診器に触れた。
「これで彼の心の中ももっと覗いておけばよかった」
彼女は、少しだけ口角を上げる。そして……。
「外科医としての彼を尊敬してる。成功を祈ってるわ」
再び歩きはじめた酒井先生は、少し先まで行って、もう一度立ち止まり振り向くと……。
「手、ごめんなさい。優秀な外科医に治してもらって」と言い残し、再び歩いていった。
私は彼女の姿が見えなくなるまで、頭を下げ続けた。
そのくらいしか、できないから。
酒井先生のおかげで、奏多さんの夢が叶う。
ひどい言葉を浴びせられたこともあったけど、それも彼女が奏多さんを本気で愛していた証。
私も慌てて救急に向かうと、彼女はもうテキパキと働き始めていた。