溺愛ドクターは恋情を止められない
高原先生は、救急隊員から詳しい状況を聞きながら、処置室に向かう。
「おそらくクモ膜下出血だ。脳外の先生にコール」
すでに準備してあったIDを処置室に届けると、ライン確保をしながら指示を出す高原先生は、鋭い目をしていた。
高原先生なら、きっと助けてくれる。
そう思いながら受付に戻ったけれど……。
「心停止!」
「クソッ、持ちこたえてくれ!」
師長の声のあと、高原先生の険しい声。
サチュレーションというのは、たしか、動脈血中の酸素供給量を示したものだ。
これが計れないというのは、かなり危険な状態だということ。
そのあとすぐに脳外のドクターが走り込んできたけれど、険しい声が飛び交い、心臓マッサージが始まった。
「イヤー。あなた!」
やっと歩けるほどの子供を連れた、奥様と思われる方の、人目をはばからぬ悲痛な叫び。
処置室の前でヘナヘナと座り込み、嗚咽を漏らす。