溺愛ドクターは恋情を止められない
「大丈夫ですか? こちらに」
慌てて駆け寄り、椅子を勧めたけれど、首を振るばかりだった。
心臓マッサージが始まったということは……心肺停止状態だということ。
そこから蘇生して助かった命もあったけれど、亡くなった命もまた、同じくらいあった。
奥様から離れられず、一緒に祈る。だけど……。
「お入りください」
処置室のドアが開いてナースが奥様を促した。
その時、見えてしまった。
心臓マッサージを続けていただろう高原先生の真っ赤な顔が。
彼が眉間にシワを寄せ、唇を噛みしめているのに気がついて、わかってしまった。
ダメだった、ことが。
「パパ。パパ」
まだきっと状況などわかるはずのない小さな手で、力なく垂れ下がった父の手を触ろうとする子供。
胸が張り裂けるというのは、こういうことを言うのだ。
「力及ばず、申し訳ありません。ご臨終です」