溺愛ドクターは恋情を止められない
脳外のドクターが静かに最期を告げる。
そして、スタッフ一同が、頭を下げた。
泣き崩れる奥様と、状況を飲み込めない無邪気な子供。
かたわらには内藤さんがそっと寄り添っていた。
私はそのまま受付に戻った。
だけど、手の震えが止まらない。
すると、処置室とスタッフルームをつなぐドアが開いて……高原先生が戻ってきた。
「松浦。悪いんだけど、薬局行って、これもらってきて?」
先生が差し出したメモには、ごく一般的な消毒薬の名前が書かれている。
それならここにもまだ在庫があるはず……と思ったところで気がついた。
きっと、この空間から私を逃がそうとしてくれている。
「はい」
メモを受け取ると、救急を飛び出した。
そっと目を閉じると、あの子が無邪気に父親に触れる姿を思い出す。