溺愛ドクターは恋情を止められない
まだあんなに小さいのに。
"死”なんて無縁の世界に住んでいただろうに。
あの子はどうやって、父の死を理解するのだろう。
私は高原先生の言うままに、逃げてきてしまった。
でもその場にとどまるしかない彼は、今、なにを考えているのだろう。
薬局で指示された通りの消毒液を受け取ると、少し気持ちが落ち着いているのを感じた。
もう外来の終わっている廊下は、人もまばらで、頭を冷やすのには丁度いい。
こんな調子で、救急受付が務まるのだろうか。
だけど、不思議と別の科に移りたいとは思わなかった。
大きく深呼吸して気持ちを整えると、再び救急に戻った。
だけど、診察室や処置室を覗いても、高原先生の姿がない。
「あの、高原先生は?」
カルテ整理をしていた中川さんに尋ねた。