溺愛ドクターは恋情を止められない

彼の苦しげな顔に、胸が押しつぶされる。


「あの……先生。……先生のせいじゃない」


患者は助からなかった。
だけど、どんな優秀なドクターが診ても、結果は同じだったと思う。

だって、あんなに長く心臓マッサージを続ける先生は、他にはいない。


「ごめん、松浦。またカッコ悪いとこ見られたな。こんなのが医者だぜ。あきれるよな」


苦しげな顔をする彼を、見ていられない。


「どうして……どうして、そんな風に言うんですか? 我慢しなくていいと言ってくれたのは高原先生です。先生だって我慢しなくていいのに。人の死を平気な顔して見ている人より、ずっと、ずっと……」


言いたいことが上手く言葉になって出てこない。

ドクターだって人間だ。
人の死に慣れる必要なんてない。

それどころか、こうして顔をゆがめる高原先生からは、人の温もりを感じる。


それからゆっくり顔をあげた先生は、少し笑って見せた。
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