溺愛ドクターは恋情を止められない
「はい、高原。――わかった、すぐ行く」
電話に出た先生が、鋭い目を取り戻した。
「交通事故だ。ふたり入るぞ?」
「はい」
彼は身を翻して部屋を出ていく。
その後ろ姿に、思わず声をかけた。
「先生!」
「ん?」
「先生なら、きっと助けられる命がたくさんあります」
振り向いた彼は、とても優しい顔で微笑んでくれた。
「あぁ、そうだな。行くぞ」
「はい」
そのふたりのうちのひとりは軽傷で、簡単な処置で済んだ。
けれど、もうひとりは……かなりの範囲に挫創が見られ、骨折も確認された。
テキパキと処置を続けて、検査のオーダーを出す高原先生の姿は、仮眠室にいた時とはまったく違う。
なにもできない……と項垂れていた彼は、たしかに患者を救っている。
IDを渡しながら、ホッと胸を撫で下ろした。