【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】
うちのホテルの場合、洗面所とその奥にある風呂場のスペースをかなり広めにとってある。
客にゆっくりとくつろいでもらおうという意図からだが、これがけっこう評判がいい。
だが、スペースが広い分、ふつうの風呂よりも掃除に手間がかかる。
一番大変なのは、洗剤で洗ったあとに『水滴をふき取る作業』だ。
大判のバスタオルで、浴槽や床はもちろんのこと、壁の水滴もきれいにふき取っていく。
足元から、手の届く範囲の壁をくまなく拭く作業は、かなりきつい全身運動になる。
――茉莉は、音を上げずにやりとげられるのか?
正直、俺は五分五分だと考えていた。
しかし、予想に反して茉莉は根性があった。
途中何度かフロントのモニターを覗きに行ったが、スーツの上着を脱ぎ棄てた茉莉は、ほかのベテランスタッフの後を懸命について回っていた。
その表情は、『一生懸命』の一言。
『やめたい』、『つらい』といった負の表情はみじんも見られなかった。
結局、遅刻してくるはずの森田は出勤することはなく、茉莉は終業時間の午前二時まで、フル回転で風呂掃除をやり遂げた。
――けっこう、根性があるじゃないか。
俺は、茉莉の頑張りをおおいに評価して、本日のアルバイト料として、茶封筒に一万円を入れて社長室で守が茉莉を連れてくるのを待っていた。