【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】


遠い記憶の引き出しを開ければ、鮮やかによみがえる日々。

あのころはまだ母と二人暮らしで、それがずっと続くのだと信じていた十七歳のとき。

住んでいた平屋の賃貸アパートの隣に建っていた、二階建ての文化住宅。

そこに住んでいたのは、童話に出てくるクマさんに似たのんびりとした雰囲気の父親と、子供好きな優しい母親、そして俺を兄のように慕ってくれた明るく元気な八歳の女の子。

『祐兄ちゃん』。

そう呼ばれるたびに、どこかこそばゆく、そしてうれしかった。

『咲子さんの……。もちろん覚えているが、なぜ君の所に娘が?』

「実は偶然、お嬢さんが私の会社に面接に来られまして」

『ああ、面接に行くと言っていたが、君の会社だったのか……』

「はい。それで、来週の月曜から夜勤で来てもらうことになったんですが……」

『夜勤、ですか?』

「はい。夕方五時から深夜二時までの夜勤です」

『……』

『夜勤』に思うところがあるのか、スマホの向こうの篠原さんは考えこむように沈黙している。


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