【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】


「今日は面接だけの予定だったんですが、急きょ人員を確保しなければならなくなり、茉莉さんに助っ人をお願いしたんです」

淡々と、そしてよどみなく、俺は事の経緯を説明していく。

「きちんと連絡を差し上げるべきでした。こちらの配慮が足らずに、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

スマホを片手に、電話の向こう側の徳太郎さんに頭を下げる。

そんな俺の姿を、茉莉は驚きの眼差しで見つめている。

無理もない。

俺が、『お隣の祐兄ちゃん』だとバレてしまったのだから。

知らせる予定ではなかったが、事情が事情だから仕方がないだろう。

『……そうでしたか。経緯はわかりました。こちらこそ娘を雇っていただいて、ありがとうございます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします』

「どうそ、ご心配なく」

『娘に、代わってもらえますか?』

「わかりました」

はい、と、スマホを差しせば、茉莉は神妙な表情でぺこりと頭を下げて受け取る。

「お父さん、心配かけて、ゴメンね……」

心底申し訳なさそうに茉莉が言えば、さっきの剣幕はどこへやら、穏やかな声がスマホから響いてきた。

『事情は分かったから、気を付けて帰ってきなさい。慌てないでいいからな……』

あまりに優しい響きに感じるものがあったのだろう、茉莉は瞳をうるうると潤ませる。

「うん。わかった。じゃあね」

ぷちり、と通話を切れば、その場には沈黙が落ちた。


< 269 / 439 >

この作品をシェア

pagetop