【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】

疲れの色は見えるものの、上機嫌で帰路についた茉莉を見送ったあと、俺は社長室でノートパソコンを睨みながら、茉莉を抱きしめたときに脳裏にひらめいた既視感について考えていた。

勘が外れていなければ、茉莉はおそらく二週間ほど前にホテルロイヤルのエレベーターの中で合った、あの女の子だ。

あの日は、俺と薫の正式な離婚が成立した日で、飯時だったこともあり二人で最後の晩餐ならぬ最後の昼食を展望レストランでとる予定だった。

展望室に向かうエレベーターの中で、「これで夫婦解消なんだから、キスぐらいさせなさいよ」、そう言って、薫が珍しく自分からキスを仕掛けてきた。

どうやらエレベーターのボタンを押し間違えたらしく、下降していくエレベーターの中で俺たちは、最後の本格的なキスってやつを繰り広げていた。

そして、エレベーターが地下駐車場に降りきり扉が開くと同時に、小柄な人影が滑り込んできたのだ。

やがて、ニューフェイスを乗せて再び上昇していくエレベーター。

さすがに他人の前でこれはまずいだろうと、薫の身体を引きはがしにかかるが、いかんせんがっちり抱き着かれていてどうにもならない。

同乗者が気になり、鏡張りになっている壁越しに視線をむければ、目を真ん丸に見開いて固まっている若い女の子と視線がかち合った。

真っ赤に顔を染めたそのようすがまるで完熟トマトみたいだと、思わず笑ってしまったが。


< 278 / 439 >

この作品をシェア

pagetop