【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】
そのあと展望レストランで女の子の近くの席に座った俺と薫は、思わぬ修羅場を目撃することになる。
ウエイトレスに促されて席についた女の子の前には、なんとなく見覚えがあるサラリーマン風の銀縁メガネをかけたヤサ男とお嬢様風の女。
盗み聞きするつもりはなかったが、なんとなく気になり意識を向けていたら、話はどんどん不穏な方向へ流れだした。
どうやら、眼鏡の男がエレベーターの女の子の婚約者で、別れ話を持ち出しているようだ。
「婚約を白紙に戻したい」
「えっ……?」
「彼女は、白川佳奈美さん。僕の銀行の上司のお嬢さんだ。それに……」
少し言いにくそうに口ごもったあと、男は意を決したように、決定打を彼女に突きつけた。
『彼女は僕の子供を妊娠しているんだ』と。
「――は……?」
驚きで息をするのをわすれていたのか、女の子は大きく深呼吸をした。
「君には、申し訳ないが、そういうことなんだ……」
男の言っていることが信じられないのか、はたまたこの状況が馬鹿らしくなったのかわからないが、女の子はクスリと小さな笑い声をもらした。
「婚約指輪は、好きに処分してくれていいから。その、君も色々大変だろうから……」
さすがに、この言いざまはないだろう。
他人事ながら、そう思った。