【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】
「悪いけど、祐一郎はここで待っててくれる? 大丈夫だと思うけど万が一のときには呼ぶからよろしく」
「ああ、わかった」
そして、女子トイレの前で待機すること十五分。
「ちょっと、しっかりして! 祐一郎、祐一郎、ちょっときて!」
薫の叫び声にトイレの中に駆けつけてみれば、顔面蒼白で意識をなくしているあの女の子が薫に抱きかかえられていた。
「たぶん貧血だと思うけど、医務室に運んでくれる?」
片手で起用に脈を取り瞳孔を確認していた薫は、小さくため息をついて言う。
救急車を呼ぶまでもないということに、ホッと安堵した俺は、薫に支えられている女の子を抱え上げた。
いわゆる「お姫様抱っこ」というやつだ。
華奢な体躯は、とても軽くて心もとない。
そのまま歩き出せば、ふわりと微かな花の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
控えめすぎるその香りは、なぜかいつまでも鼻の奥に残った――。
今日給湯室で茉莉を抱き寄せたときに感じた既視感の正体は、たぶんこの経験だ。
あの時の女の子は髪をポニーテールにしていた。
女性は、髪型でだいぶ印象が変わる。
それに、状況が状況だっただけに、あまりジロジロと顔を見ないようにしていたから、いまいち記憶が不鮮明であの女の子が茉莉だとは断言できない。
――確か、「万が一のときは、免許証があるから身元は分かる」と言っていたから、薫に聞けばあの女の子が茉莉かどうか確認はとれるが。
確認を取って、どうしようというんだ?
茉莉が婚約者に振られた過去がある。
その事実を確かめて、どうする?
自問自答するが、気になるものは気になるのだ。
気になるから、確かめる。
それだけのこと。
腕時計を確認すれば、午前二時二十分。
さすがに、電話はかけられないか。