【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】
「わかりました」
茉莉は表情を消して小さくうなずくと、もう一度会釈をして社長室から出ていった。
非常灯だけが照らす薄暗い廊下に消えていった、小さな背中。
――あれは、おそらくこの部屋を出たとたんに泣くな……。
チクリと胸を刺す罪悪感に、俺は特大のため息をついてまぶたを閉じた。
適当に当たり障りのない雇用関係ですませれば、楽しくすごせはするだろう。
だが俺は、それじゃ嫌なんだ。
自分でも、なぜこんなに茉莉に惹かれるのかわからない。
『ふふふ。美しく成長した紫の上を愛でられるチャンスよ、光源氏さま』
脈絡もなく、してやったりというような美由紀のセリフが脳裏に浮かび、俺はブルブルと頭を振った。
いやいやいや、それはない。
絶対ない。
あくまで、ビジネス上惹かれているだけだ。
ふと腕時計に視線を落とせば、時計の針は、すでに午前三時を回ろうとしている。
さすがに今日は疲れた。
帰って、シャワーを浴びて寝てしまおう。
そう思い、テーブルの上に残された2つのコーヒーカップをトレーに乗せていたら、デスクの上で充電中だったスマホの着信音が鳴った。
噂をすればなんとやら。
この時間にこのタイミングで電話をかけてくる奴は、一人しか浮かばない。