【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】


気分よく夜の街をドライブしていたら、助手席から、茉莉がニコニコと俺の方を見上げてくる気配を感じた。

俺は、なんとなく自分が上機嫌なのを悟られたくなくて、視線を前方に固定したまま「なんだよ?」と、不機嫌そうな声を作って低い呟きを落とす。

だが、茉莉は俺の不機嫌ボイスは気にもとめずに、さらに今度は『うふふ』と楽しそうな笑い声をあげた。

「なんだよ、気持ち悪い笑い方をして。捻挫したのは、足じゃなくて脳みそのほうなのか?」

「違いますよ。実は、薫さんに、いいこと聞いちゃったんです」

「……いいこと?」

「はい。社長は、『ツンデレ』だから、一度自分のテリトリーに入った人間には、めちゃ甘になるって」

「……あんのやろう。余計なことを」

美しい元妻に対するには乱暴すぎる言葉を吐いて、俺は、口元に苦笑を浮かべる。

薫との間にどんなやり取りがあったのかは知る由もないが、茉莉にとっては良い方向へ向かう出来事だったようだ。

「あの、社長」

「うん?」

何気なく応えれば、茉莉はさらりと、特大の爆弾発言を投下した。

「私、社長の事が、好きみたいです」

瞬間、俺は、思わずブレーキを踏みこんだ。

夜のしじまを割いて響き渡る、甲高いブレーキ音。

急停車した車の中で、バックミラーを見て後方の安全確認をした俺は、大きなため息を吐き出した。


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