【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】
今更ながらウインカーを上げた俺は、車を路肩に寄せるとハンドルにつっぷしてボソリと言った。
「……脅かすなよ、ばか。事故ったらどうする」
言葉じたいはしんらつだが、別に怒っているわけじゃない。
ハンドルから体を起こして、助手席に座る茉莉の方へ視線を向ければ、まっすぐな瞳が俺を見返している。
その瞳には、からかいの色はうかんでいない。
どうやら、冗談を言ったのではなさそうだ。
「薫に、何か言われたのか?」
「薫さんに? さっきの『社長はツンデレ』以外は、特に言われてませんけど?」
「それはもういい……」
確かに昔なじみだし、この一か月はとても友好的な関係だった。
だが、恋愛的要素は皆無……だったと思うんだが。
「で、どういういきさつで、俺が好きだって結論に至ったんだ?」
そこのところを詳しくご教示願いたい。
茉莉は、自分の心の動きをたどるように、考えながら言葉を紡ぐ。
「ホテルに着いたとき、総支配人さんが言った『奥様も、間もなくお見えになるでしょうから』って言葉を聞いたからです」
――うん?
奥様が、なんだって?
脈絡がなさすぎて理解が追い付かない俺は、思わず眉根に深い皺を刻んだ。