【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】
「ごめんね。寮についたらすぐに水槽をセットするから、それまで少しガマンしてね」
話しかけると、亀子さんは『へいき、きにしないでね』というように、にょーん、と首を伸ばす。
――ふふっ。亀子さんは、ほんとうに、癒し系だよね。
私と父は、今朝、長年住み慣れた我が家を引き払ってきた。
生まれてからずっと住んでいた、母との思い出がたくさんつまった、我が家。
門を出るときの離れがたい気持ちは、なんといえばいいのだろう。
『今までありがとうございました』
言葉にしなくても、無言で頭を下げる父の気持ちは痛いほどわかった。
私は父にならい、心からの感謝の気持ちを込めて、ひっそりと建つ二階建ての我が家に深く頭を下げた。
寂しくて、切なくて、少し涙がこぼれそうになった。
だけど、泣いたらだめだ。
泣きたい気持ちは、きっと父の方が強いはずだから。
そう思って、必死にこらえた。
「お父さん、本当に今日新しい会社の寮に行っちゃうの?」
隣でハンドルを握る父に視線を向けて問えば、父は申し訳なさそうに眉毛を下げて言う。
「すまないな。明日から長距離の仕事が入っているから、お前の荷物を運びこんだら、その足で向かわなきゃならん……」