【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】
ドキリと、鼓動が大きくはねた。
手を伸ばせばさわれるくらい近くに、社長の顔があった。
切れ長の目も、すうっと通った鼻筋も、少し薄い唇もいつもと変わらない。
でも、何かが違う。
ああ、そうか、メガネだ。
今の社長は、いつもの銀縁メガネをかけていない。
それに、いつもはきっちりと整えられている髪が、ラフに乱れている。
額に落ちかかる前髪が、端正な目元に淡い影を落としていた。
「社……長?」
どうして社長が目の前にいるのかわからない私は、小首をかしげた。
「祐一郎だ。二人のときはそう呼べっていっただろう?」
「祐一郎……さん?」
私の隣で半身を起こしていた社長――、祐一郎さんは、私の呼びかけに柔らかく微笑む。
そして、私の額に『こつん』と自分の額をくっつけて「熱は下がったみたいだな」と、安堵したようにささやいた。
「……熱?」
「親父さんを見送った後、玄関で倒れたのを覚えてないのか?」
「え……?」
熱を出して倒れた?
なんだかものすごく眠くなって寝落ちしてしまった気はするけど……。
「その様子だと、医者の往診を受けたのも覚えてないな?」
医者って、もしかして。
「薫さん、ですか?」
「本人が内緒にしておけって言い張るから内緒だ」
いや、それ、ぜんぜん内緒になっていませんから、社長。
「『疲労と睡眠不足と軽い脱水だから、水分をとって良く休みなさい』との名医からの伝言だ」
ああ、薫さんにまで迷惑をかけちゃったのか……。明日にでも、お詫びとお礼の電話をいれておかなきゃ。
――って、ちょっとマテ。
眠りの国へ片足を突っ込んでいた私は、急に現実世界に引き戻された。