【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】
「あの……?」
「覚えてないの? あなた、展望室のトイレで貧血を起こして倒れたのよ?」
「あ、はい。それは覚えてますけど、その、ここはどこですか?」
「ああ、ここは、ホテル・ロイヤルの医務室よ。私は常駐医の磯辺薫(いそべかおる)」
トイレの女性・薫さんは、形の良い赤い唇をほころばせた。
彼女の少し大きめの白い耳に付けられた、唇と同じに真っ赤なルビーのピアスが、キラリと輝きを放ち、私の記憶中枢を刺激する。
見覚えのある、唇とルビーの赤。
――あ……。
脳裏に、ついさっき、ホテルのエレベーターで目撃した『濃厚キスシーン』が特大で浮かんだ。
――ま、まさか、この人?
「エレベーター・キス……」
声を出すつもりはなかったのに、思わず口が滑った。
『しまった!』
慌てて両手で口を押さえたけど、後の祭りで。
「あら。しっかり見られてたのね」
薫さんは、そう言って動じる風もなく、クスクスと愉快そうな笑い声を上げた。