【番外編追加♪】オ・ト・ナの、お仕事♪~甘いキスは蜜の味~【完結】
「どれ、脈を診てみようか、手を出してくれる?」
「あ、はいっ!」
私は、見とれていたことを悟られまいと勢いよく頷き、『シュタッ!』っと、右手を差し出した。
長くて繊細な指先が、私の手首に優しく触れる。
ヒンヤリした指先の感じがとても心地よく、ふんわりと、微かなフローラルのいい香りが鼻腔に届いた。
「ちゃんと、お食事している?」
薫さんは、自分の腕時計に視線を走らせながら、世間話をするようにサラリと問診を始めた。
――そう言われれば、昨夜はお父さんの倒産話で食べるどころじゃなかった。
今朝はティースプーン二杯分のシュガー入りコーヒーを、数口。
それでも頑張って、トースト半分は、たいらげたけど。
ノアールでは、アメリカンコーヒーだけ。
楽しみにしていた昼食は、別れ話で、宇宙の彼方に飛んでいってしまったし。
いつもの食事量からすれば、食べてないに等しいかもしれない。