戦慄のクオリア
「腰抜け共の集まりだな」
立場上公に公的出来ないグレンは口元に笑みをつくることでスカーレットに肯定の意を伝えた。
「任務は今から一〇日後だ。其の間に充分休んでおけ」
「はい」
「ああ、其れと此れ」
グレンから手渡されたのはラ・モールの取扱説明書だった。
「任務までに、頭に叩きこんでおけ」
「了解」
スカーレットは地下を去る前にもう一度、自分が乗ることになったラ・モールを見上げた。
グレンはruinのことを知っていた。おそらく、エレジア連邦の動きを怪しんで、いろいろ調べていたのだろう。
ラ・モールは、ruinと対抗するために作られたものだ。もしかしたら、ラスール帝国はruinを投射される前にラ・モールでエレジア連邦に戦争を仕掛けるつもりだったかもしれない。ただ、先を越されただけで。
強い兵器に対抗するために強い兵器を開発したラスール帝国。そうやって人々は強さを追い求める。其れを続けたら世界は此の先、どうなるのだろう。そんな物思いに耽ったスカーレットはらしくないと思い直し、地下を出た。
生徒は全員、体育館に居るのでボロボロになった校舎はガラリとしていた。首都が半分滅ぼされ、数えるのが億劫になる程の人が死んだ以外はラスールの日常に変化はない。何を考えているのかは知らないが、リベレイションは此処に攻め込んでくることはない。ただ、漠然とした不安だけが此の校舎を包んでいた。
あの日以来、死者は増えても怪我人が増えることはない。だから誰も今が戦争中だという自覚がない。でも、現実は、政府内でいろいろな交渉がなされている。目に見えないだけで戦争は既に行われている。領域ギリギリの所で、リベレイションの群体が空と海に分かれて、ラスール帝国を囲んでいる。領域を出たら直ぐに蜂の巣にされるだろう。
「ruinの破壊か」
ラ・モールはまだ一機しかない。でも、だからってruinが一機だけとは限らない。そして同じ場所にruinが保管されているとは限らない。グレンは分かっているだろうが、其の上が分かっているか、いささか不安が残る。
「面倒くさいなぁ」
「何が面倒くさいのですか?」
空いた教室を選んで、適当な机に腰を下ろしていたスカーレットの元にレレナが来た。
「あまりウロウロしない方がいいですよ。いつ、何が起こるか分からないのですから」
「何処に居たって同じでしょ」
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