戦慄のクオリア

「そうですけど・・・・」
「怪我人と群れていたって何もできない」
「そうですね」
レレナは教室に入り、スカーレットの前まで来た。けれど、身体はスカーレットの方に向いてはいない。彼女の視線もスカーレットを捉えてはおらず、レレナは廃墟のようになった窓の外に向いている。
「お父さんとお母さん、大丈夫かな」
スカーレットに向けた言葉ではなかった。窓の外を見て、今の状況が不意に現実だと実感した為に出た言葉だった。
レレナの言葉を聞いたスカーレットの目も必然と窓の外に向いた。
　生徒が学校に居るのは両親なら分かっている。でも、ruinが投射されてからは何が起きるか分からないので国民の安全の為にも外出は禁止されている。おまけに電話も繋がらない。となると、お互いに生死の確認のしようがない。
「スカーレットのお父さんとお母さんは？」
「二人とも死んでいる」
「ごめんなさい」
「別にいいよ。昔の話だし。其れに・・・」

（顔すら覚えていない相手だ。今更、彼らの生死対して何の漢書も浮かばない）

「其れに、なんですか？」
「いや、何でもないよ」
あまり、自分のことを話さない方がいい。何がきっかけで正体がバレるか分からないから。スカーレットはレレナを警戒し、話題を切り上げることにした。
「そろそろ戻ろうか」
生きている以上、人はいろいろな事情を抱えている。そして、其れは友人という理由で踏み込んでいいものではないことをレレナは知っている。だからスカーレットが話題を切り上げた時、寂しさを覚えながらも何も聞かないことにした。
「そうですね。それにしても何故、教室に居たのですか？」
立ち上がったスカーレットの後を追うようにレレナも教室を出た。
「少し、一人になりたかっただけよ。体育館は居るだけで息が詰まる」
「其れは、分かる気がします」
体育館には怪我人も居る。生徒達の痛みを伝える声、恐怖や不安が伝道する光景は其処に居る全員が感じている。其れでも止めることができないのが人間の弱さというもの。其れに、怪我人の多くは重症者ばかり。そんな状況で、病院に搬送することができず、適切な治療も施せない。学校側にできるのは限られた物資の中で、応急手当てをすることだ。