戦慄のクオリア
「必ず帰ってくるから」と、ジェイドに約束を半ば一方的に取り付け、スカーレットは歩き始めた。其の背をジェイドは見つめることしかできなかった。
「中坊がこんな所で一人、どうしたの？」
暗い廊下で、街中を爆弾の雨が降っている中、ニヤニヤしながら男が来た。ジェイドは其の男のことをよく知っていた。直接話したことはないが。彼はよくスカーレットのことを見ていた。だから気になって調べた。
「あなたこそ、どうしたんですか。アーチャー先輩」
「エヴァネンスでいいよ」
「みんな体育館に居ますよ。其処で待機してなくていいんですか？其れとも姉さんと同じお仕事ですか？」
「なんのこと？」
「とぼけないでください。僕、知ってるんです。あなたがグレン大佐から頼まれて、姉さんの監視をしていること。姉さんにあなたのことは言ってません」
「どうして言わないの？君はお姉さんが大好きなんでしょう。いいの？お姉さんに隠し事して」
「姉さんはそういったことに頓着しないんです。敵だろうが味方だろうが関係ない。其の素性も。刃向うなら殺す。其れだけだ。そして、其れは僕も同じなんですよ、先輩」
「怖い姉弟だ。せめて殺されないように気を付けるとしよう」
最初から最後までニヤニヤしながら言葉も本気なのか冗談なのか分からない。食えない奴だというのが、ジェイドがエヴァネンスに抱いた最初の印象だった。


　地下に行ったスカーレットは頭を保護する為のヘルメットを被り、ダメージを最小限に抑える為の特殊なスーツを着用した。
「スカーレットちゃん、準備はできてる？」
白衣を着た、男がひょっこりと更衣室に入って来た。ノックもなしに突然入ってくるのが彼のスタイルだ。着替え終わっているから良いものの。終わってなかったらどうするのだろうか。と、スカーレットは呆れた。
　だが、科学馬鹿の彼は女性の裸体に興味はない。別に、裸を見たからってどうってことないのだ。
「スーツの着心地はどう？」
「問題ありません」
「操縦方法は？」
「既に頭に入っています」
「さすが、スカーレットちゃん。急な任務だっていうのに。じゃあ、ま、行こうか」
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