戦慄のクオリア
「目撃されたのは一機のみ、ラスール帝国が何機所持しているかは不明」
スラグの言葉に大臣達は落胆する。
「おそらく一機だけでしょう」
デルフィーノの言葉に真っ先に食付いたのはクラーケだった。
「何故、そう思う?」
「あんな兵器を直ぐに何機も用意できるものではありませんし、其の時間もなかったはず。其れにruinを守る為に幾つかの衛星兵器が用意してあるのは敵側も予測してはいたはず。なのに、ラ・モール一機だけというには不自然です」
デルフィーノの言葉に「なるほど」と頷きながら、大臣達の顔から不安が消え去って行く。
「スラグが配布したラ・モールのデータによると、小回りが利かない上にパイロットはラ・モールの操縦には不慣れのようで、戦闘機との対戦には苦戦を強いられています。ラ・モールを敵から守ったのは仲間の戦闘機ということからも、ラ・モールが一機しかないことの裏付けになるでしょう」
「なら、其の一機を破壊すれば」
「いや、盗んで、我々が使うというのもありだな」
議論はラ・モールをどうするかということに移っていた。其の部屋の様子を別の離れた部屋から盗聴器で聞かされているとも知らずに。聞いているのはアダーラだ。
 「人間の欲は尽きないものだな」
ラ・モールを欲するエレジア連邦をアダーラは嘲笑した。
「戦争を此の世からなくしたというのも人の欲ですよ」
ヤシャルの言葉にアダーラは「そうだな」と言って、笑った。今度はそんな自分を嘲笑して。
「なら俺は俺の欲の為に動くとしよう」
アダーラは耳に付けているイヤホンを外し、部屋を出た。
「イカルガ王国軍人は解放できたのか?」
「はい。半数以上は此方の手に落ちています。残りは此処に到着前にラスール軍に殺されました」
イカルガ軍を解放したのは戦力が欲しかったから。ラスールも其れが分かっているから敵の手に落ちないように檻に閉じ込めていたイカルガ軍を殺したのだろう。
「人の命がまるでゴミのようだ」
街の至る所に転がる死体の山。利用するだけして、必要なくなったら捨てる。人の倫理を問う時代は過ぎ去り、命を使い捨ての道具と考える時代。人は其れを当然のように受け入れる。深く考えもせずに大衆に流されるのは人の悪い所だ。
「アダーラ、アルフォードは何処かしら?」
指に親指大のダイヤモンド、耳にはルビーのピアスをつけ、水色のドレスにも米粒大から拳大までの大きな宝石が散りばめられているものを着用している女が来た。彼女はイカルガ王国王妃イリーナだ。
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