戦慄のクオリア
「スカーレットさん」
白衣を着た茶髪の女性が右手にバインダーを持って近づいてきた。つり目の彼女は黙っていると、きつい印象を受ける顔立ちをしている。其れは彼女も分かっているようで、意識して笑顔を作っていた。
「エイダさん」
「帰ってきて早々悪いんだけど、少しいいかしら?」
「はい」
エイダ・ハーネス。彼女はカルルの助手だ。スカーレットはエイダに連れられ、別室に行った。
「早速だけど、ラ・モールについて聞きたいんだけど」
わざわざ別室に移動した理由を提示しなくてもスカーレットには分かっていた。
「初めての操縦で、上手く操作できなかったというのも理由の一つですが、小回りが利かないので、対戦闘機だと戦いづらいですね。見た目よりも機動性はありますが、其れでも戦闘機には及びません」
「成程。どんなに攻撃力があっても総合すると戦闘機には敵わないのね」
エイダは持っていたバインダーに挟んでいた紙にスカーレットからもたされる情報を書き込んでいく。
「戦車相手なら余裕なんですけどね」
「と、いうと?」
「踏み潰すだけですから。戦車相手なら機動性はラ・モールが勝っていますし」
「サラッと物騒なことを言わないで」
エイダはメモした内容をじっと見つめた。取り残した問題点はないか。また、それらの問題をどう攻略するかを考えていた。科学馬鹿の助手は科学馬鹿ということだ。
「博士と話し合って、いろいろ改良してみます。ある程度改良したらラ・モールの本格的な訓練が始まるから覚悟しておいてね」
聞きたくない言葉が聞こえた気がしてスカーレットはエイダを見た。彼女はラ・モールのデータを見るのに集中していて、スカーレットの視線には気づいていない。
「また、私が乗るんですか?」
仕方がないのでスカーレットは視線で訴えるのを止め、言葉にして訴えることにした。
「私はできればもう乗りたくないんですが」
「其れは残念ながら聞けない話ね」
「何故です?」
「ラスール帝国軍人の戦闘データとラ・モールのデータを照らし合わせた結果、ラ・モールに最も適しているのはスカーレットさんだけです」
< 31 / 59 >

この作品をシェア

pagetop