戦慄のクオリア
「姉さんは知らないだけだよ」
「そう?でも其れはお互い様」
「僕も姉さんのことをよく知らないってこと?」
「人はね、自分のことを一〇〇%理解しているわけじゃないの。他人に言われて初めて気づくことだってある。自分のことも理解できないのに他人の全てを理解しようなんて無理な話。でも、だから想像することができるのよ。此の人は今、何を考えているのだろうって知りたいと思う。其れって素敵なことだと思わない?」
「なんか意外。姉さんが他人との関係をそんなふうに思っていたなんて」
「そう?」
「もっと冷めていると思った」
「知らない一面が知れて良かったね」
本心かどうかはジェイドには判別できなかった。だが、わざとらしくない発言をしたのは直ぐに分かった。人との関わり、理解することの嬉しさをスカーレットは教えたかったのだ。
「姉さんは、夜、好き?」
「私はあまり好きじゃないな。静かで、暗くて、私には今、此の世界が冥府に見える」
スカーレットは闇を見つめながら静かに微笑んだ。此の人が武器を持って戦う兵士だとは思えないぐらいの、穏やかな笑みだった。
「さっ。そろそろ帰って、寝ようか」
「はい」
結局、ジェイドはスカーレットに何も聞けなかった。
翌朝、生徒会は衣装づくりや劇の練習を始めた。アドルフはシナリオ作成に力を入れた。文章力が乏しく、国語が苦手なアドルフだが、他ならぬミレイから託された仕事。放り出すわけにはいかない。内容に詰まったら会議をして、話の続きを考えた。
時折、ジェイドに見せて、誤字脱字な内容に矛盾がないかを確認してもらった(ジェイドは生徒会役員でもなければ高校生でもない。だが、勉強はスカーレットが見ているので並みの高校生よりかはできるからだ)。
劇の練習はシナリオができたところから少しずつ進めていき、シナリオが完成し、本番が間近になる頃にはスカーレットの怪我も完治していた。
そして、本番直前・・・・・
薄暗い体育館。其のステージの幕が開き、ライトがミレイを照らす。生徒だけで教師も何事かとステージに注目した。
「これより始まるわ、生徒会が独自に作り、二週間かけて準備と練習を重ねた汗と涙の結晶。さぁ、皆様、現世(うつよ)を忘れ、夢の一時をお過ごしくださいませ」
「そう?でも其れはお互い様」
「僕も姉さんのことをよく知らないってこと?」
「人はね、自分のことを一〇〇%理解しているわけじゃないの。他人に言われて初めて気づくことだってある。自分のことも理解できないのに他人の全てを理解しようなんて無理な話。でも、だから想像することができるのよ。此の人は今、何を考えているのだろうって知りたいと思う。其れって素敵なことだと思わない?」
「なんか意外。姉さんが他人との関係をそんなふうに思っていたなんて」
「そう?」
「もっと冷めていると思った」
「知らない一面が知れて良かったね」
本心かどうかはジェイドには判別できなかった。だが、わざとらしくない発言をしたのは直ぐに分かった。人との関わり、理解することの嬉しさをスカーレットは教えたかったのだ。
「姉さんは、夜、好き?」
「私はあまり好きじゃないな。静かで、暗くて、私には今、此の世界が冥府に見える」
スカーレットは闇を見つめながら静かに微笑んだ。此の人が武器を持って戦う兵士だとは思えないぐらいの、穏やかな笑みだった。
「さっ。そろそろ帰って、寝ようか」
「はい」
結局、ジェイドはスカーレットに何も聞けなかった。
翌朝、生徒会は衣装づくりや劇の練習を始めた。アドルフはシナリオ作成に力を入れた。文章力が乏しく、国語が苦手なアドルフだが、他ならぬミレイから託された仕事。放り出すわけにはいかない。内容に詰まったら会議をして、話の続きを考えた。
時折、ジェイドに見せて、誤字脱字な内容に矛盾がないかを確認してもらった(ジェイドは生徒会役員でもなければ高校生でもない。だが、勉強はスカーレットが見ているので並みの高校生よりかはできるからだ)。
劇の練習はシナリオができたところから少しずつ進めていき、シナリオが完成し、本番が間近になる頃にはスカーレットの怪我も完治していた。
そして、本番直前・・・・・
薄暗い体育館。其のステージの幕が開き、ライトがミレイを照らす。生徒だけで教師も何事かとステージに注目した。
「これより始まるわ、生徒会が独自に作り、二週間かけて準備と練習を重ねた汗と涙の結晶。さぁ、皆様、現世(うつよ)を忘れ、夢の一時をお過ごしくださいませ」