戦慄のクオリア
深淵を見つめる時、深淵もまた此方を見ているとはよく言ったものだ。ミレイは無謀にも深淵を見つめ、自分の存在を深淵に捉えられてしまった。
「何って、人殺しだよ」
ミレイもアドルフも言葉を失っていた。恐怖で顔を引きつらせる二人を見て、レレナはきょとんとしていた。いつも通りのレレナと変わらない表情。だから余計に異様さが際立っていた。
「何が悪いの?」
レレナは静かに問うた。其の場に居る全員に。ミケラはこっそりスカーレットの様子を見てみた。彼女の表情は笑いながら人を殺す友人を見ても揺らがなかった。スカーレットが何を考えているのかミケラには分からなかった。
「ねぇ、人を殺して何が悪いの?」
「別に悪いなんて一言も言ってないけど」
答えたのはスカーレットだった。レレナに集まっていた視線が一気にスカーレットに向いた。血で汚れたスカーレットの姿と持っていたナイフにミレイとアドルフの顔は再び強張った。知人が二人も人を殺した事実についていけなくなっていた。
「戦争ですし」
纏う空気がいつものスカーレットとは違う。
「殺し、殺される。目に入っていなかっただけで、いつも行われています。これが戦争じゃなくてもそうです。生者は生者を食らって生きている。ただ一つ気になるのは、あなたが随分、人を殺す姿が様になっていること」
レレナは極度の緊張から精神が崩壊し、人を殺してしまったという感じではなかった。
「だって、此れが初めてじゃないもの。私が初めて殺したのは自分の両親だった」
「両親?あなた、自分の両親のことを心配してなかった?」
ruin破壊任務を言い渡された日、教室でレレナは確かに言ったのだ。『お父さん、お母さん、大丈夫かな?』と。
「そうなのよ。おかしいのよね。確かに殺したのに、でも生きているの。本当、変な話よね」
レレナの言っていることは支離滅裂で、誰にも理解できなかった。
レレナは正常な判断ができる。スカーレットだけが、そう思った。自分を殺そうとする者は敵として排除することができる。少なくとも、ミレイやアドルフよりも正常だ。だが、心はとっくの昔に壊れてしまっている。
「どうして、自分の両親を?」
何も言えなくなったミレイの代わりにアドルフが聞いた。
「同じだよ。やられる前にやった。だって、あの人達、私に痛いことばかりするんだもの。此のままじゃ殺される。だから殺した。其れだけのことよ」
「何って、人殺しだよ」
ミレイもアドルフも言葉を失っていた。恐怖で顔を引きつらせる二人を見て、レレナはきょとんとしていた。いつも通りのレレナと変わらない表情。だから余計に異様さが際立っていた。
「何が悪いの?」
レレナは静かに問うた。其の場に居る全員に。ミケラはこっそりスカーレットの様子を見てみた。彼女の表情は笑いながら人を殺す友人を見ても揺らがなかった。スカーレットが何を考えているのかミケラには分からなかった。
「ねぇ、人を殺して何が悪いの?」
「別に悪いなんて一言も言ってないけど」
答えたのはスカーレットだった。レレナに集まっていた視線が一気にスカーレットに向いた。血で汚れたスカーレットの姿と持っていたナイフにミレイとアドルフの顔は再び強張った。知人が二人も人を殺した事実についていけなくなっていた。
「戦争ですし」
纏う空気がいつものスカーレットとは違う。
「殺し、殺される。目に入っていなかっただけで、いつも行われています。これが戦争じゃなくてもそうです。生者は生者を食らって生きている。ただ一つ気になるのは、あなたが随分、人を殺す姿が様になっていること」
レレナは極度の緊張から精神が崩壊し、人を殺してしまったという感じではなかった。
「だって、此れが初めてじゃないもの。私が初めて殺したのは自分の両親だった」
「両親?あなた、自分の両親のことを心配してなかった?」
ruin破壊任務を言い渡された日、教室でレレナは確かに言ったのだ。『お父さん、お母さん、大丈夫かな?』と。
「そうなのよ。おかしいのよね。確かに殺したのに、でも生きているの。本当、変な話よね」
レレナの言っていることは支離滅裂で、誰にも理解できなかった。
レレナは正常な判断ができる。スカーレットだけが、そう思った。自分を殺そうとする者は敵として排除することができる。少なくとも、ミレイやアドルフよりも正常だ。だが、心はとっくの昔に壊れてしまっている。
「どうして、自分の両親を?」
何も言えなくなったミレイの代わりにアドルフが聞いた。
「同じだよ。やられる前にやった。だって、あの人達、私に痛いことばかりするんだもの。此のままじゃ殺される。だから殺した。其れだけのことよ」