戦慄のクオリア
「其れだけって」
「弱者は強者に淘汰される。其れが政界の摂理よ」
 正しい。だが、其れは無情すぎる。
「其処で何をしている?」
 敵かと思い、声の主をスカーレットは素早く見つめた。其処に居たのはグレンだった。
「・・・・グレン先生」
 名前を呼んだミレイをグレンは一瞬だけ見た。そして、状況を把握するように其の場に居る全員を見つめた。
「スカーレット、ジェイド」
「はい」
直属の上司であるスカーレットは返事をしたが、軍人ではないジェイドはグレンに視線を向けただけだった。
「敵の狙いはラ・モールだ。地下に急げ」
 スカーレットは敬礼して、走り出した。其の後をジェイドも追って行く。
「グレン先生、彼女達は・・・・・っ」
説明を求めようとしたミケラにグレンは冷たい目を向けた。背筋が凍てつく程の冷たい目にミケラは黙ることしかできなかった。
「校内には敵しかいない。生きたければさっさと校内を出ろ。仕事の邪魔だ」
 グレンは其れだけ言って、何も呑み込めず、動くことのできないミケラ達の間を通り過ぎた。


 ミケラという足手纏いが居なくなったことにより、スカーレットはスムーズに動くことができるようになった。だが、其の代わり、スカーレットの頭には笑いながら人を殺すレレナの姿が焼き付き、其れが重しとなって、スカーレットの動きを鈍らせていた。
「姉さん、彼女のことは気になるけど、今は他にすることがあるでしょ」
「うん、ごめん」
 ジェイドに促され、スカーレットは何とか地下に辿り着くことができた。地下には既に敵が侵入し、ラ・モールの整備に当たっていた研究員が何人も殺されていた。
 生きている研究員はハンドガンで応戦していたが、非戦闘員である彼らは最低限の訓練しか受けておらず、到底勝ち目のある戦いではなかった。其れでも諦めずに戦っているのは、ラ・モールを守るという義務感と助けが必ず来ると信じているからだ。
「スカーレットちゃん」
「カルル博士、エイダさん」
 カルルは鉄製の棚を盾にして、銃で応戦していた。エイダは其の隣で簡単な爆弾を作っていた。スカーレットとジェイドは流れ弾に当たらないよう姿勢を低くして二人の所に行った。
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