戦慄のクオリア
「遅いよぉ、二人とも」
 切迫した状況であるにも関わらず、カルルはニコッリ笑っていた。其れが強がりなのか、能天気のなせる業なのか、スカーレットには分からなかった。
「君達二人だけ?」
 問われたスカーレットは腕時計で時間を確認した。
「他の人達はそろそろ着く頃だから校内に残っている敵を一掃しているはず。もう少し時間がかかるかも」
「軍人というのは、どうしてこう行動が遅いのかしら」
 エイダは文句を言いながら、出来たばかりの粗末な爆弾を投げる。死傷率はかなり低いが、隙を作るぐらいはできる。
 爆弾から逃れようと、敵は散り散りになった。
 スカーレットは爆弾から逃げる敵をカルルから渡された銃で次々と殺していく。
 ジェイドも隠し持っていた小型ナイフを投げて、応戦する。ナイフは一寸の狂いもなく、敵の頭に突き刺さり、命を奪っていく。二人だけでもかなりの戦闘力だ。戦況が一気に引っくり返るぐらいに。
「・・・・・レイチェル?レイチェル王女?」
 銃弾が飛び交う中、一人の男が立ち上がった。格好の的だ。だが、スカーレットは撃つことができなかった。其の一人の男の言葉で敵の殆どが引き金を引くのを止めた。
「レイチェル?レイチェルって、あの?」
「イカルガ王国の第一王女の?」
「でも、彼女は病死したって」
「いや、でも、暗殺されたって噂も」
 敵の中に波紋が広がっていく。
「自分はイカルガ王国軍、エルロス中尉です。レイチェル王女ですよね」
 エルロスは立ったまま、期待に目を輝かせて、スカーレットを見つめた。彼女が「そうだ」と言うのを待っている。
「呼ばれているよ。スカーレット・ルーフェン。いや、レイチェル・ヴァース・イカルガ殿下」
「・・・・エヴァネンス先輩」
グレンに言われ、ラ・モールを守りに来たエヴァネンスは銃撃戦を止めて、真摯に問いかけるエルロスを面白そうに見つめた。
「自分はラスールからイカルガ王国を救う為に、リベレイションに参加しました」
 エルロスはリベレイションの思想をいたく気に入ったようで、其の思想を語る自分に酔っているように話し始めた。
「リベレイションは素晴らしい組織です。彼らに従えば此の世から戦争がなくなる日も夢ではありません」
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