戦慄のクオリア
 学校は使い物にならず、街中でも戦闘が起こる為、今のラスール帝国に安全な場所はない。民間人はシェルターに避難し、親兄弟の感動の再会となり、辛気臭い空気の中でほんの少しだけ、笑顔が見られるようになった。
 しかし、問題は戦闘だけではなく、開戦から一年。いよいよ政府が誤魔化し切れず、ラスール帝国内でおかしな病気が流行していることを開示した。感染する病ではないことが分かり、其処まで混乱することはなかった。
 アルドフとミレイの両親は運良く生きていた。ミレイの父親は国防大臣なので、シェルターに居ることは殆どない。そして、レレナは軍人に志願し、今は戦場に出ている。スカーレットも上等兵として参加。
 ジェイドは軍人ではないが、スカーレットが戦場に居て、自分だけ安全な場所に居るようなタイプではない。おそらく、彼も戦場に出て、戦っているのだろう。
「生徒会メンバーの3/5が戦場に出ているんスよね」
「3/5じゃないわ。正確には2/4よ。ジェイドはいろいろ手伝ってくれたけど、彼は生徒会メンバーではないもの」
「あっ、そうすね」
アドルフの間違いを訂正しているミレイに活気はない。年が明けても、ミレイの脳裏には消えずに残っていた。笑いながら人を殺すレレナの姿が。
「レレナはどうして、軍人に志願をしたと思う?」
「さぁ。人を殺したかったから、とか」
「レレナはそんな子じゃないわ!」
 ミレイは思わず怒鳴ってしまった。近くに居た人達は何事かと思い、ミレイ達を見た。興奮気味のミレイは周りの視線には気づいていない。
「人殺しを仕方がないと言った彼女を、笑いながら人を殺す彼女を見て尚、そんなことが本心で言えるんですか?」
 アドルフは大切な友人を生きながら失ったような状況を受け入れられないミレイを哀れんでいた。
 アドルフの言葉にミレイは言葉をつまらせた。分からなくなってしまったのだ。今まで見てきたレレナと、学校で目撃してしまったレレナがあまりにも違いすぎて、どっちが本当のレレナなのか、どっちを信じればいいのか。
「アイツらと俺達とでは住む世界が違うんですよ。理解するだけ無駄じゃないですか」
「・・・・そうね。そう、かもしれない」

 (住む世界が違う。じゃあ、此の戦争が始まらなければ、私達は同じ世界で同じものを見れていたのだろうか。ううん、其れは無理ね)

 美人で、勉強も運動もできる優秀なスカーレット。だけど、何処か達観したような彼女を思い出し、ミレイは苦笑した。

 (きっと私達が同じものを見れていたことなんて一度もなかった。其れに気づくかどうかの違いだ)

 「寂しいわね」
 独り言とも取れるミレイの言葉にアドルフは返す言葉が見つからず、聞かなかったことにした。
< 59 / 59 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

表紙を見る
表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop