桜の下で、君を想う。
すっかり機嫌を悪くして部屋にこもっていた俺に、数時間後電話がかかってきた。
「拓くん、すぐ都立大学病院まで来て!早く!絵美が・・・」
そこから先は、鮮明な記憶はほとんどない。
ただ覚えているのは消毒液のにおいで溢れかえるリノリウムの廊下を、708の部屋番号を探しながら、めちゃくちゃに走っていたことだけだ。
「絵美!」
ドアを開けながら祈る。
どうか、どうか、無事で。
想いを伝えようとしている時の何倍も、何百倍も緊張していて、心臓が破けるかと思うほどに早くて、苦しくて、どうかお願いだから、俺の命を使ってもいいから生きていてくれ。
「絵美!」
病室のドアを壊れる勢いで開けた。
「今は、眠ってるの。こ、昏睡状態だって。脳死の可能性もあるらしいの・・・」
「脳死・・・?」
そこには絵美の家族がベッドの周りに並んでいて泣いていた。
おじさん、おばさん、お姉さん、ごめんなさい。
これは、俺のせいだ。
償えきれない罪を犯してしまった。