桜の下で、君を想う。
「臓器・・・提供?絵美が?」
「はい、ご希望されていたようです。」
「そうですか・・・。」
おばさんと医者が話していた。
「絵美さんは、もう脳が機能していないので、もし臓器を提供していただけるのであれば今すぐ手術が必要です。ご家族でよくお話しになってお決めください。」
おばさんも、おじさんも愕然としていて。
その中でただ一人、お姉さんは毅然としていた。
「絵美、そういうの支援してたんだよ。学校で習ったんだって、臓器が必要な人たちの話。それでもし、自分にそういうことがあったらって希望してたの。お母さんとお父さん、それが絵美の意思だけど最終的に決めるのは親だよ。でも、最期くらい絵美の好きなようにさせてあげたら?」
「奈々・・・。」
「お母さん、お父さん。」
「でも、脳死って、あんな眠ってるみたいなのに!」
「お母さん、絵美はもう帰ってこないの!」
エミハ、モウカエッテコナイノ!
「奈々さん、俺、どうしたら・・・絵美は・・・もう帰ってこないって・・・どうして・・・」
「ごめんね、拓くん。でも、しょうがないの。絵美は・・・もう・・・死んじゃったから・・・。」
その時の奈々さんの泣き出しそうな顔が絵美の顔と重なった。
なんで、絵美はあの時泣きそうだったんだ?
「拓くん、私も悲しいよ!けど、それが絵美の意思なら応援してあげなきゃって思って・・・。あの子らしいのよ、こういう選択、だから・・・私は手術に賛成・・・」
「あんた何言ってんの!? なんで絵美の体に傷をつけなきゃいけないのよ!最期くらい綺麗に逝かせてあげたいじゃない!」
「俺からも、お願いします。」
土下座をした。
「俺が・・・こんなこと言える立場じゃないってわかってるけど・・・けど・・・もし、本当に絵美が他の人たちをこういう形で助けたいと思っていたら、俺も、応援したいんです!」
「ちょっと、拓くん・・・」
「拓くん、頭を上げてくれ。」
今まで一度もしゃべらなかったおじさんが口を開いた。
「おじさん・・・。」
「拓くん、いままで、絵美のことをありがとう。でも、これは家族の話だから話し合って決める。でも、僕は手術に賛成だ。絵美も、きっと君が一緒にいてくれて嬉しかったと思うよ。君に一つ謝らなければいけないことがある・・・。その・・・隠してたことがあったんだ。あの子は・・・若年性アルツハイマーだったんだ・・・。」
「アルツハイマー・・・?」
「絵美が、日記を書いててな。君に読んでほしい。と言っても、僕らもさっき見つけたばっかなんだ。中身は読んでない。でも、これは君が持っているべきだと思う。」
「俺が・・・でもいいんですか?俺が、あいつを・・・絵美を呼びださなければ・・・あいつが事故に遭うことも・・・。」
「拓くん、しっかりしなさい。あんたのせいじゃないわ!そんなこと言ったら絵美が怒るわよ!」
奈々さんが言った。
絵美の、あの、プリプリと怒った顔が浮かんだ。
「あなたの幸せを一番に願ってたんだから。」
涙が溢れる。
絵美・・・おれほんと馬鹿だったよ。
何にも知らなくて。
「絵美・・・絵美・・・。」
俺は彼女の日記を抱きしめてただ、泣き続けた。