カミヲリ

はじまり

＊＊＊

暗い静寂に少女が一人。
少女は身動ぎひとつせず、ただ立ち尽くしているような様子だった。


ざわ。

森の木々がざわめき、月の光が雲の切れ間から射し込む。
そこには、おおよそ人ではない、幽鬼のような美しさがあった。
精彩の欠いた、淡い茶色の硝子玉のような瞳が、ゆっくりと動いた。

「おはよう」

口角が上がり、笑みに似た虚ろな表情を、彼女は作る。

「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
泡が弾けたように、無数の声が聞こえた。


ぞろり。
辺りは鉄錆のような、生臭いものがすえたような、悪臭が漂う。



「さあ、はじめようか。新しい物語を」
少女はゆっくりと手を広げた。

突如、辺りは暗闇に包まれる。
遠くから蝉の声が聞こえ、雲の切れ間から月が顔を出す頃にはもう少女は消えていた。