夕方5時半過ぎの魔物
二年になってしばらく経った今、私はふとそんな忘れ去られた噂を思い出しているところだ。
私は忘れ物に気づいて教室に戻ろうとしていた。
校門の前で1時間くらい莉央と話していたせいか、校舎にはほとんど人がいない。
まだ陽が沈むまではいかないけど、確実に廊下は暗くなってきた。
「やば…」
いやいや…、噂なんて、所詮噂。
っていうか、あんなの随分前に言ってたやつだし。
…そもそも幽霊出たとか言ってたのって一年の教室だよね。
私は完全に怖くなっていたけど、必死に頭の中で自分を落ち着かせて深呼吸をしてから教室のドアを開けた。
瞬間、私は緊張で詰まっていた息をゆっくりと吐きだす。
陽が当たっていなかった廊下とは対照的に夕陽に照らされた教室は、まるで違う世界に入り込んでしまったような雰囲気だった。
その中に、人影が一つ。
「……っ!」
声も出ない私は後退りをして、机にぶつかった音でその影は振り返る。
そして、私が派手にしりもちをついたのは言うまでもない。