【短編】脇役少女は時を舞う
目を覚ますと、鈍く腹部が痛んだ。

車に正面から当たった衝撃で打ち身傷が出来ているらしい。
というか、それよりも。

ここはどこなんだろう。

こんな純和風の部屋、私は知らない。
目が覚めるべき場所は病院なはず。

軽くパニック状態に陥っていると、襖がスパーンと開いた。

「あっ音!良かった、起きたっ…」

紗菜が綺麗な桃色の着物姿で立っている。
普段は強気なのに、目に涙を溜めて。

「紗菜…無事で良かった。ここどこ?」

私が尋ねると紗菜は困ったように笑った。

「幕末の、新選組屯所」

「え?」

冗談に聞こえる冗談を言ってよ、紗菜。

「私たち、トリップしちゃったんだよ」

紗菜が嘘つかないの知ってるけど。

「嘘でしょ…」

「とりあえず、近藤さんの所に行こう」

こんなベターな展開があるとは思わなかった。

ていうか、言霊ってあるんだな。

紗菜に手を引かれ、屯所内を歩く。

「よく場所分かるね、迷路みたいなのに」

実に慣れた様子で移動している。

「一週間も経ってれば主要な部屋くらいは覚えるよ」

あぁ、と納得。

一週間、私は寝ていたらしい。

そんなことを話していると、局長の部屋についたらしく紗菜が立ち止まった。

「一応間者じゃないことは言ってあるよ。だから大丈夫」

紗菜はそう前置きしてから、襖を開けた。

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